収束

紫煙がゆっくりと立ち昇っていく。

「ふぅ、やはり葉巻はハバナ産に限る。」

もちろん"彼"は葉巻など吸わない。

テレビ画面でマヌケ面したオヤジが
そう言っていた。


とっととガンになって
死ねばいいのに。



一仕事終えた"彼"は、
街角の娼婦でも
夜勤明けの警備員でもなく、
そう、まるで
徹マン接待で最後にキッチリ負け越したサラリーマンのような

-- 満足気であり、疲れ切った --

表情をしながら、
ぼんやりとブラウン管を眺めていた。

今回の狂乱劇を振り返りながら・・・。


。。。。。。。。



・・・
「ぬ、違~う!」

パース制作は困難を極めた。

画面に映し出された線の数は2万本近い。

PCでも一瞬では処理しきれない数だ。

『簡単なモノ』でも
このくらいの規模になってしまう。

そもそも『簡単』と言われるような事程
苦労するような気がする。


しかし今この時間に
このヤマを片付けてしまわなければ
大変なコトになると"彼"には分かっていた。


背後に見え隠れする更に巨大な影。

探偵家業に長く身をやつした者だけが身に付ける独特の"カン"、
・・・は全然無いし、
そもそも探偵ですらないので
当てずっぽうで、そう予想した。

どちらにせよ、
今はこのヤマに全力を傾けるしかないのだ。


だが目の前には
以前として山積みになった問題と検討図が、
ひなびた温泉宿にある卓球台よろしく、
当然のようにそこに存在していた。


その中でも頭痛のタネは
仕事関係の年賀状である。


この時ばかりは、
郵政は民営化するより潰れてしまえばイイと思う。


画面を見続けるのに飽きると、
ハガキの束に取り掛かり
版画を刷る。

そしてまたPC向かう。


そんな繰り返しが続き、
とうとう最後の時を迎えた。

少なくとも年内必須の仕事は(多分)終わる。


既に太陽は朝日とは呼べない高さに昇り、
アスファルトは幾ばくかの熱を帯び始めていた。

スピーカーから流れる
マーヴィン・ゲイの柔らかな歌声が
気分を落ち着かせてくれる。


"彼"は時計を一瞬確かめると、
必要な物をカバンに詰め込み、
事務所に鍵を掛けた。


そして"彼"は依頼人の元へ、
まだ少し朝靄の残る街に消えていくのだった。



しかし、
年賀状の版画は刷ったが
『宛名書き』という重大事が残っていることに
"彼"が気付いているかを
確かめる術は、既にない・・・。






・・・街は新春への期待に沸き立ち、
年の瀬を迎える人々の雑踏に
圧倒され始めていた・・・。



            [完]

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