第二夜-突貫-

重苦しい雰囲気に
事務所が包まれている。


当初の依頼ではまだ多少猶予のあった期限が
いつの間にか「今週中」
ということになっており、
しかもまた「変更がある」
と言うのだ。


“彼”はそっと窓の外を見やり
冷めかけたブラックコーヒーを一気に飲み干す。

今の“彼”には丁度いい苦みが口の中に広がり
今の表情を覆い隠してくれる。

「フッ、冷めたコーヒーにも
こんな使い道があったとはな・・・」


そう呟く“彼”の横顔に
窓から差し込む街灯と
半開きのブラインドの作り出す陰影が
縞模様のコントラストを描き、
殊更やつれさた表情を強調していた。


ただでさえキビしい状況に
更なる自体悪化は、
“彼”を挫けさせるには十分だった。


愛用のイタリア製スーツっぽい
中国製ジャケットを背もたれにかけ、
オランダ製マグカップに入った
新たに淹れた薄いたコーヒーを飲む。


マグカップはさっき洗い物をしているとき
シンクにぶつけて欠けていた・・・。


今日もいいことがない。


そんな後ろ向きな気分に浸っていると、
突然抵抗しがたい眠気に襲われる。


もう、寝ちゃおっかなー。


きっと一晩眠れば
事態は好転しているハズ。

“彼”はそう自己暗示をかけ
現実逃避様子を見ることにする。

現実逃避様子見という‘禁断の果実’は
“彼”に新たな知恵も知識も授けてはくれない。

状況が益々悪くなるだけであろうことは
薄々分かってはいたが・・・。


しかし今の“彼”には
柔らかなベッドの温もりが必要だった。

-決して嫌になって逃げ出したのではない-

ただちょっと現実という名の北風が
今の“彼”には冷たすぎるのだ。

心の灯油ストーブは原油高で物置の肥やしに、
魂のガスヒーターはとっくに止められ
精神の電熱器は熱効率が悪く使用禁止。

身も心も懐もお寒い“彼”に残された暖房は
すでに煎餅布団の万年床だけである。

何者にも負けない鉄の意思と
鍛え抜かれた鋼の肉体を誇る“彼”にも
休息は必要なのだ。


そんな言い訳と自己弁護を考えているうちに
いよいよ本格的に眠くなってくる。


“彼”は大きくひとつ伸びをすると
固い決意を秘めたその瞳をゆっくりと閉じ、
静かに夜の帳の中に溶け込んでゆくのだった。


おやすみなさい。




人々は享楽の時間の終りを知り、
街は夜の闇にその身を横たえ、
ゆっくりと、しかし確実に
明日へと歩みはじめていた・・・。

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